子ども達を守るために「ASUKAモデル」

~2018.2.10さいたま市の「学校での突然死ゼロを目指して・シンポジウム」に行ってきました~

こんにちは、HIGEです。
平成30年2月10日(土)さいたま市内で開催されたシンポジウムの見学と聴講に行ってきました。

 

このシンポジウムは「学校現場での突然死ゼロ」を目指して、日本AED財団、さいたま市教育委員会により、さいたま市内の小学校において開催されたもので、さいたま市内の全小学校で行われている教職員による子ども達への「BLS教育」の公開授業と、関係者の皆様によるご講演が行われました。

さいたま市では、2011年の9月に発生した桐田明日香ちゃんの悲しい出来事を教訓とし、学校の現場で緊急事態が発生した際の対応マニュアル「ASUKAモデル」を作成しました。

【ASUKAモデルの誕生】

2011年9月、さいたま市内の小学校で6年生の桐田明日香さんが駅伝の課外練習中に倒れ、死亡するという悲しい出来事がありました。


検証の結果、明日香さんが倒れた直後に「けいれん」や「死戦期呼吸」と呼ばれる「ゆっくりとあえぐような呼吸」があったために、教師らは心臓が止まっているとは思わずに、校内にあったAEDが使われなかったことがわかりました。

この事故の反省をふまえ、さいたま市教育委員会はご遺族と共に、「体育活動時等における事故対応テキスト:ASUKAモデル」を作成しました。

この事故は、決して他人事ではなく、どこでも起こりうることです・・・

 

このテキストで強調されているポイントは、反応の確認、呼吸の確認など心停止の判断をする際に「判断ができなかったり、迷ったら胸骨圧迫とAEDの使用に進む」ということです。

心停止への対応は、時間との勝負ですので、無駄な移動などはせず、「現場で」迅速に救命処置を開始する必要があります。そのために教師はもちろん、児童・生徒に対する心肺蘇生講習を充実させることや教師が携帯電話を携帯することなど、日々の危機管理体制の構築も求めています。この「ASUKAモデル」のテキストは、学校以外の組織・施設でも、突然死に対する対応マニュアルとして非常に実践的で役立つものだと思いますので、学校関係者の方はもちろん、それ以外の方々も、ぜひ、ご覧ください。

減らせ突然死プロジェクト:http://aed-project.jp/movies/movie5.htmlより引用

「ASUKAモデル」の誕生とともに、さいたま市では、小学校5年生、6年生、中学校と教職員による段階的なBLS普及が進められており、児童、生徒、教職員が一体となって学校現場からの突然死ゼロを目指しています。3年間で段階的に、かつ系統立ててBLSを学ぶという取り組み、それも消防職員が主体となるのではなく、学校の教職員が主体となり、授業としてBLSが学ばれていることは本当に素晴らしいことだと思います。

2003年、私がシアトルに行った際、幼少期からのBLS教育システムについて学びましたが、シアトルでは「18歳までに3回のBLS教育を行うこと」を目標に、BLS教育の普及を進めていました。

その理由について尋ねたところ「幼少期から段階的に反復してBLSを学ぶことは非常に有効な手段です。この取り組みから数年後には、バイスタンダーCPRの実施率は60%を越え、その結果、年間平均40%という高い救命率につながった。」とのことでした。

その当時は、「日本で実現するには、いったいどのくらい時間がかかるのだろう?」と思っていましたが、現在、さいたま市で行われているこの取り組みは、まさにシアトルが推進していた取り組みそのものであると感じました。

 

特筆すべきなのは、教職員が主体となって、授業としてBLSを学んでいることです。
今日、我が国においても、全国的に小中学生に対するBLS普及が展開されていますが、その主体の多くは消防機関であり、消防の救急救命士が学校に招かれ、ゲストティーチャーとして救命講習会を行っているというケースがほとんどではないかと思います。

現場での体験談など、生の現場の声が聞けるというメリットはありますが、授業とは別に、特別なイベントとして開催しなければならず、学校側のスケジュールと消防側のスケジュールが合わなかったりというケースも多く、全ての学校で全ての児童や生徒に対し、同じように開催することは、なかなか難しいという部分もあります。
そのような地域が多い中、さいたま市では、教職員が主体となり、3年間という時間をかけ、系統的に、反復して児童や生徒と一緒にBLSを学んでいるという点は本当に素晴らしい取り組みであると感じました。 

さいたま市内の小中学校では、体育祭の準備が終わった後のグラウンドで、教職員と児童・生徒が一緒に「実際に緊急事態が発生した現場」を想定し、それぞれの役割に基づいた「シミュレーション訓練」も行っているそうですが、これも本当に素晴らしい取り組みであると思いました。

 

私も、教職員を対象とした講習会では、講習会の最後に「総まとめ」として、児童(生徒)と担任の教員しかいない学校の体育館を想定したシミュレーション演習を取り入れています。

通常の救命講習会ですと「人が倒れています!誰か来て下さい!」と応援を呼べば、すぐに「はい、どうしました?」と来てくれるというシュチエーションで開催されていますが、実際の緊急現場では、いつも周囲に誰かがいてくれるとは限りません。

そんな時「自らが応急手当を行いながら、周囲にいる子ども達を動かし、いかに早く応援を呼び、いち早くAEDを取り寄せることができるか」をシミュレーションする演習を行っていますが、その演習のお手本とさせて頂いているのが、この「ASUKAモデル」です。


学校現場だけに限らず、子ども達が関わるスポーツ現場でも、この「ASUKAモデル」は大変役立つものです。

私が毎年夏にボランティアでお邪魔している子ども達のスポーツ指導に関わる方々へのBLS講習会でも、この「ASUKAモデル」をご紹介させて頂き、より実戦的な講習会を実施しています。

 

もし、学校やスポーツの現場で、突然、子どもが倒れた時・・・・

倒れた子どもの状態がよくわからない時は、まず応急手当を開始、応援を呼び、AEDを取り寄せ、AEDのパッドを貼ってみること・・・これが一番重要です。

誰かが倒れたその瞬間から「命の砂時計」の砂はどんどん落ちていきます・・・

応急手当が1分遅れるごとに救命のチャンスは10%ずつ減っていきます・・・
全国平均の救急車到着時間は約9分・・・・「命の砂時計」を傾けて砂が落下する速度を遅くすることができるのは、あなたの手による「胸骨圧迫」であり、砂の落下を食い止めることができるのは「AED」なのです。
その方法をわかりやすく解説したマニュアルが「ASUKAモデル」ですので、学校の教職員の方、子ども達のスポーツに関わる指導者の方々はもちろん、ひとりでも多くの方に知って頂きたいと思います。

※2015年12月31日(東京・中日新聞掲載記事)

あるご遺族の方の言葉です。

「親を失うことは、過去を失うこと、配偶者を失うことは、今を失うこと、子どもを失うことは、未来を失うこと・・・・」

楽しいはずの学校や、スポーツの現場で、二度と再び同じような悲しい出来事が繰り返されないよう「子ども達を守れる学校」、「子ども達を守れるスポーツ現場」を目指して、子ども達の「未来」を守りましょう・・・

それが、明日香ちゃんとご家族の願いなのですから・・・(HIGE)

命の記録~ASUKAモデル~「ASUKAモデル」の紹介動画です。どうかご覧頂ければと思います。

「体育活動時等における事故対応テキスト:ASUKAモデル」は下記のURLからダウンロードすることができます。
http://www.city.saitama.jp/003/002/013/002/p019665.html

「学校での教育が命を救う」~ASUKAモデルを学んだ中学生が救命活動に関わり救命したニュース動画です。(動画再生後、Youtubeからご覧下さい。)

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